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2018年1月20日 (土)

初春文楽 呂太夫が語る「俊寛」の深さ

 「平家女護島 鬼界が島の段」は通称「俊寛」。平家物語に材をとった能の曲「俊寛」をもとに、近松門左衛門が書いた作品です。初演の翌年に歌舞伎にも取り入れられています。

 『歌舞伎ハンドブック』(三省堂)から、あらすじを紹介します。(適宜、改行しました。)

 九州の先の絶海の孤島に、俊寛、平康頼、少将成経の三人が流罪になっている。成経は隣島の海女、千鳥と恋仲である。

 そこへ赦免船が到着する。平清盛の家臣瀬尾太郎が、中宮(清盛の娘徳子が高倉天皇の皇后となった)の安産祈願のため、康頼と成経が赦免された旨を告げる。

 名を落とされた俊寛は嘆くが、もう一人の使者丹左衛門が登場し、平重盛と教経の配慮で俊寛は赦免されたと告げる。

 三人と千鳥が乗船しようとすると、瀬尾は千鳥の乗船を断る。残される千鳥の悲嘆。船から抜け出した俊寛は、千鳥のために瀬尾と争い、清盛の憎しみの強いこと、妻の東屋が清盛の側女にならなかったので処刑されたことなどを聞かされ、絶望して瀬尾を殺す。
 その罪を受けて島にとどまり、代わりに千鳥を乗せてくれと嘆願し、丹左衛門は承知する。

 船は岸を離れ遠ざかっていく。見送る俊寛は凡夫心(欲望や執着などの煩悩にとらわれる心)を断ち切って独り残る覚悟を決めたはずだが、煩悩をこらえきれずに島の巌頭から声を限りに叫び、船を見送るのだった。

・・・・・・・・・・ここまで・・・・・・・・・・

 この演目を豊竹呂太夫が一人で語り、鶴澤清介が三味線を弾きました。
 呂太夫は私が素人弟子として義太夫を習っている師匠です。でも、これから書くことは、いわゆる「身内びいき」では決してありません。

 私はこれまで、この演目を文楽でも歌舞伎でも何度も見てきました。師匠が語るのを聴くのは初めてなので、どんな風に語られるのだろうと注目していました。
 すると、話が進むうちに、思いがけないことが起こりました。このドラマ「俊寛」が宗教劇として立ち現れてきたのです。

 師匠はクリスチャンなので、おそらく師匠ならではの解釈をされたのでしょう。そのことが見ていてぐいぐいと心に伝わってくるのです。
 妻の死を知らされた時、俊寛は絶望します。しかし、すぐ後で、「死ねば来世で再会できる」という希望を抱いたのでしょう。この時代、「夫婦は二世の契り」とされ、死後に生まれ変わった世界でも夫婦の縁が続くと信じられていたのです。

 若い二人の愛を成就させるために人を殺すという究極の選択をして、ただ独り島に残った俊寛は、壮絶な孤独の末に即身成仏したのではないだろうか。もともと、仏教者としてさほど優れた人物ではなかった俊寛が、与えられた苦難を自らの選択で乗り越えていくことによって、真の宗教者になったに違いない。
 そんなことを考えました。師匠の語りから感じ取ったのです。

 呂太夫師匠の深い思いと芸が、古典の作品である「俊寛」に新しい命を吹き込みました。その現場に立ち会えたことが、この上なく幸福に感じられました。

 これからも呂太夫師匠は古典をより普遍的なものとして(現代人に通じるばかりでなく、国境を越えてどんな人の心をも打つ作品として)提示していかれるのではないか。そんな気がしました。
 ふと、「天命」という言葉が浮かびました。この方には天命がある。それに気付き、それを全うしていこうとなさっている。そう思いました。師匠の前にあるのは前人未到のいばらの道に違いないのです。
 師匠のこれからの歩みをしっかりと聴いて、見て、微力ながら応援していきたいです。

      天命を持つ人の芸初芝居




 

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文楽」カテゴリの記事

コメント

桂さん
お師匠様の素晴らしい公演を観られてよかったですね。
呂太夫先生、お若い頃は作家を志されたこともあったんですね。
けれど、「五感のかなたへ」というタイトル箇所にそれをにじませるだけで
あくまで語りに終始しておられました。
お忙しさなど、色々理由はあるとお察ししますが、
太夫に徹するという禁欲的な姿勢すら感じました。

桂さんのおかげで、私も今週、
生身の太夫さんの浄瑠璃を聴きに、文楽劇場へ行くことにしました。
ありがとうございます。

snowdropさん、
文楽の公演に行かれるんですね。
良い座席だといいのですが。
座席によって、受け取れるものがずいぶん違いますから。
また感想を記していただけるとうれしいです。

桂さん、お気遣いありがとうございます。
じつは公演の直前だというのに、正面の5列目の席が取れたんです!

お弟子さんにこんな俳句を詠んでもらって、お師匠様は幸せですね。
それに、桂さんならではの深い洞察…
「五感のかなたに」によると、
ゴスペル文楽のイエスのかしらは「俊寛」だったとか。
そういえば暮れにも新作を発表しておられましたっけ。

また考えを深めて、拙い記事にまとめたいです。

楽日にご覧になったのでしょうか。
素敵です!
ゴスペル文楽は見たことがあるのですが、
首が俊寛だったとは、すっかり忘れていました。
それだからこそ余計に師匠は「鬼界が島の段」に
特別な思いを持っておられるのでしょう。
暮れの公演は見逃したんですが、
3月にいずみホールで開かれる公演を見に行く予定です。
「狂言風オペラ フィガロの結婚」です。

こんばんは。今日の「にっぽんの芸能」で放映されますね。
録画スタンバイしました。

前回のコメントの続きです。
桂さんならきっと魅力的な句集ができますよ。いつか気持ちが変わるかも…
私自身、いまは歌集よりブログという気分ですが、将来的には分かりません。
ネットのトラブルでブログ自体が消滅したら、と思うと恐ろしいです。

初入選のときは嬉しくて、ブログで報告しました(つけまつげの歌です)。
いまも入選した歌を、時間をおいてから、ブログに載せる事はたまにあります。
そのさいは「***入選作」と小さく付記しています。
家族を喜ばせるために実名で投稿しているので、載せにくいんです。

ブログには、写真と引き立て合うような短歌を選んでいます(今風屏風歌?)。
誰かへのメッセージをこめた歌も多いです(贈答歌)。
歌合せや相聞、連歌も試みました。
コンクールで競うジャンル(題詠、自由題、etc.)とは少し違いますが
どれも古(いにしえ)につながる大切なジャンルだと私は思っています。

昨年末に入会した短歌の会誌では、
ブログで既発表の歌でも、外国語が未発表なら
(あるいは既発表のものと違う言語なら)
投稿できることになっています。
おかげで、だいぶん気分が楽になりました。

私は臆病で、ネットに応募したことはないんですけど、
ブログ既発表作でもOKなのでしょうか?
桂さんのできたての俳句、今後こちらで拝見する機会が減るとすれば寂しいですが…

snowdropさん、「にっぽんの芸能」、私も録画しました。
襲名披露公演で襲名披露の演目でない演目が録画・放送されることって
よくあるんでしょうか。
私には珍しいことのように思えました。

snowdropさんにも初入選の時があったんですね。
とても美しく撮れた写真と歌が相まって、
snowdropさんのブログの魅力を高めていると感じています。
いろんなジャンルに挑戦しておられること、私も見習いたいです。

昨年末に入会された会誌は日本語と外国語の両方で記すことが前提なんですね。
さすが語学に堪能なsnowdropさんは一味違いますね。

ネットに応募する作品がブログで既発表のもので良いかどうか、
私はよく知らないんです。
今回はたまたまブログでは書いていない句でした。
どうなんでしょうね。
サイトの説明をもう一度よく読んでみます。
本当に、今の状態では今までのように気楽に
「この頃の俳句」なんて記事を書けないですものね。

おはようございます。
夕べようやく録画を見て、「見おくる男」のモノクロ図版をカラーに差し替えました。
そこで、はたと気づいたのですが、俊寛にも千鳥にも足がありました!
文楽人形に足をつけたのは戦後復曲された「曽根崎心中」だったと記憶しているのですが…
これは「足ずり」を表現するための演出なのでしょうか。

連休も最終日ですね。良い一日をお過ごしください。

snowdropさん、
録画はしたものの、まだ見ていないんです。なかなか時間が取れなくて。
千鳥に足があるとは驚きです。
「曽根崎心中」だけが例外だと思っていました。
孤島の海女が身にまとっている着物は丈が短いので、
足が見えないのはおかしい、という判断なのでしょうか。

「文楽ハンドブック」を読みますと、この演目は、
幕末から近代まではほとんど上演が途絶えていて、
昭和5年(1930年)に古靭大夫(山城少掾)が復活させたのだそうです。
千鳥に足をつけたのがその時なのか、それ以前からあったのかについては
触れられていませんでした。

「紡錘」と「糸車」の形の違い、お分かりになりましたでしょうか。
あやめの蕾が何かの形に似ているなあと考えていて、
思い出したのが織機で使う紡錘だったのです。
あの短歌は「糸車」ではなく「紡錘」でないと、
成立しないのです。

失礼しました。
「糸車」ではなく「苧環」でしたね。
「苧環」の中には紡錘形のものもあるのでしょうか。

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